ナナメの夕暮れ / 若林正恭
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- 読書感想
タイトルにも含まれる「ナナメ」というのは、世の中に、社会に適合して生きる人に対してのナナメに構えた態度、のこと。本書ではそのナナメをいかにしてやめるにいたったかや、やめた今思うこと、について書かれています。
ぼくはずっと毎日を楽しんで生きている人に憧れてきた。ずっと、周りの目を気にしないで自分を貫ける人に憧れてきた。それは、一番身近な相方であったり、テレビで共演する明るくて前向きで失敗を引きずらず、頭が良くて劣等感を感じさせない人だったりした。なんとか死ぬまでに、そういう人間になりたいと願ってきた。だけど、結論から言うとそういう人間になることを諦めた。諦めたし、飽きた。それが不思議なことに、「自分探し」の答えと「日々を楽しむ」ってことをたぐり寄せた。この本には、その軌跡が描かれています。生き辛いという想いを抱えていて、息を潜めて生きている人はもしよければお付き合いください。毎日が楽しくて充実しているという人は、今すぐこの本を元の位置に戻して、引き続き人生を楽しんでください。
どちらかというと、私はいまだに世の中が生きづらいと感じるほうなので、ささるところが多かったです。
読んでいて『ゲーテとの対話』を読んでいる気分になりました。
共通点は、ある一節(それは1文より長い単位のことだとして)に遭遇したときに、一旦読む手を止めて、そこからぶわっと思考が広がるあの感覚。こういう感覚を覚える本は読んでいて楽しいです。
そのぶんマーカーの箇所(わたしはKindleで読んだのでハイライトの数)が膨れ上がります。
その中でも、特にこの、スレた大人に対する文章が印象に残りました。長いですが、2箇所。
高校の同級生に久しぶりに会った。そいつは新入社員の時期に「部下のがんばりを会社全体が認めていない」と社長室に乗り込んで意見し、社内でも有名になった男だ。社長にはあっさり「うん、与えられた仕事を黙ってやってね」とたしなめられたらしい。それから15年、そいつは今かなりの人数の部下を抱え、会社では上から5番目という立場らしい。「お前みたいな奴が、自分が若い頃の態度を棚に上げて『最近の若い者は……』とか言ってんだろ?」「あー、その時期は過ぎたよね」「過ぎた?」「不平不満ばっか言って仕事しない部下もいるけど『ぼくがやります』って奴もたくさんいるからそういう奴にお願いしてるよ」「へー、仕事しない人には注意したりしないの?」「しないねー、時間の無駄だし、やる気のある奴を伸ばす方が会社にとって良いからさー」
と
冒頭の同級生の話もそうだが、若い子に批判精神は似合う。「それを言っちゃあおしまいよ」というのはおっさんの役目だ。若者は批判さえすればイデオロギーを持っているように見せられる時期がある。だが、おっさんは批判した場合すぐに代案を求められる。ホスト側の責任があるから。壊して終わりじゃない。批判は割と簡単だ。だって完璧なものってこの世にはないから。批判は一瞬で、創造は一日にしてならない。だから、ぼくは歳を取ることに恐怖心を持っている若い男と評論家(代案を出さなくて済む職業だから)を信用していない。ぼくにも「お前の批判芸もういいわ」という時期がとっくに来ている。なので、アンケートに「世の中への不満を書いてください」と書いてあったりすると困る。ふくれた下っ腹に、世の中への不満はあまり似合わないのだ(瘦せればいいのだが)。
自分は30でもう若くないのに、こういった批判をしてしまうことがよくあったしまだまだ捨てきれないので、特に響いたんだと思います。
そろそろホスト側の責任を負って、創造をはじめる時期だ。